林:それがさっきおっしゃった自分の立場を自由にしていたいってことなんですかね?

佐野:そうだね。自由になるってことは凄く厳しいこと。、、、、、、。
もう何人かの人が、僕が何か一般的な社会の活動もせず、何か特別な位置にいて、例えばボヘミアンビレッジか何かに住んでいるムーミン谷のスナフキンみたいに思っている人がいるかもしれない。違う。僕は市民の一人なの。
社会の中で表現活動して、僕はこう思うんだけど、皆はどう思う?ってそんなかんじで相手がいるから曲を書こうと思うし、ライブパフォーマンスもする。
そうすると自覚しなくちゃいけないのは、僕がボヘミアン的な自由って言っても、じゃぁ一般の四十何歳の男性が普段しているように、シチズン・市民としての責任や役割はどういう風にしてるんですか?と問われてくるだろう。
どうやら僕は今までそうした事柄をなるべく見せないように見せないようにしてきた。
何故ならば僕の提供している作品はある種のファンタジーだからだよ。
ファンタジー村から覗いた現実の観察を歌にしてるだけだって。
どこかで自分でそう思い込んでる。
でも昨今の例えば僕がライブパフォーマンスをして、そこに観客がいる。
彼等はもう三十代前半、十分に人生のさまざまな経験を通過してきてる彼等を、十代の時と二十代の時は僕は、自分とファンという関係でしか物を見られなかった。
今は友人か兄弟かそんなかんじで彼等を見る時がある。
僕と同じように彼等も人生の中で経験を積んできてる、人生に対するアドヴァンスっていうユーザーだったらば、話す内容、話しかけ方も十代の頃と違って僕はいいと思ってる。
この世界に生きてくことは、もちろんユーモアのセンスを携えたファンタジーっていうものも大事だけれども、もう少しマジな話をしようか?って、そう言えるような気がしないでもない。
ビートルズはマジな話をする前にバンドが解散してしまった。
でもその後レノンがソロになって、マジな話をし出した。
そこで評価されている良い楽曲というものもある。
マッカートニーにしても、ジョージ・ハリスンにしてもそう。
ソングライターは経験を積むと、良いことか悪いことかわからないけれどもキャリアの初期では世間知らずだった為にもの凄く上手なファンタジーを書ける。
経験不足の為にね。
でも人生のキャリアを積んだソングライターは、今さらファンタジー書いてもしょうがないという気持ちがどっかに働く。
そうするとマジな視点をそこに入れていくことになる。
途端に表現が難しくなる。
そしてファンタジーを求めるリスナーはそこから離れていく。
そのソングライターが言おうとしている意味がキャッチ出来ずに。
そしてソングライターはそんな事をよーく知ってる。
賢いライターであれば、ディランのように。ソングライターはその仕組みについてよく知っている。
だから手を変え品を変え、時にはファンタジー時にはリアルということを使い分ける。
それを人々は老練なとか言うかもしれないけれど、一人のソングライターがこの世界で生き残っていくことは、もの凄く大変。
他の人達が一生懸命人生をやりくりするのと同じくらいタフだ。
だからそこにいろいろな工夫があっても、僕はいいと思う。
でもフッと思うのは、それほどたいした経験もないあの頃が愛しく思うことがある。
そこで紡いだ「ガラスのジェネレーション」や「ハートビート」。
あまり僕は自分の昔の曲を聴いたりはしないけども、20周年アニバーサリーの時聴いたら、いいかんじなんだ。
今書けっていっても書けない。
でもこればっかりは懐かしがっていてもしょうがない。
だから僕が決めたのは、20周年アニバーサリー以降僕がとる道は偽ることなしに、今の自分の目に見えるものを正直に歌っていこうということ。
それが十代の心に届くか、多くの人達の耳に届くか、それがオリコンチャートの上にノミネートされるかどうか、そこまでは面倒見切れない。
ま、面倒見てくれる人がいたらいいけどさ。いるんじゃないか?
ビジネスマンだとか面倒みてくれたらもちろん頼むよって言うけど。
でも僕は自分の仕事でどうしても精一杯、表現していく事でどうしても精一杯。
自由でいるっていうのは、意外とタフでないと。


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